仙台地方裁判所 昭和24年(ワ)14号 判決
原告 高橋慶蔵
被告 下山泰三
一、主 文
被告は原告に対し金二十一万八千円及びこれに対する昭和二十四年六月四日以降完済に至る迄年五分の割合による金員を支拂うべし。
原告のその余の請求はこれを棄却する。
訴訟費用は之を二分し、その一を原告、その余を被告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は被告は原告に対し金五十二万円及びこれに対する昭和二十四年六月四日以降完済に至る迄年五分の割合による金員を支拂うべし、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求原因として原告は昭和二十年十月初頃、被告から鉄屑一瓲三千円の割で五十瓲買受ける契約をなし、その後同年十二月初頃迄の間に代金として五回に合計金十五万円を前渡したが、被告は同年十一月中合計金三万円の鉄屑を原告に引渡しただけだつた。昭和二十二年十一月十六日原告と被告は合意の上右賣買契約を解除し、被告は原告に対し前渡残代金十二万円に債務不履行による損害賠償額を加算し合計金二十三万円を支拂うことを約定し、別に被告は原告に対し自轉車荷掛一個五十円として四千六百個(但し附属品附)を内二千三百個は昭和二十二年十一月十六日より同年十二月三十日迄の間に、残二千三百個は同二十三年一月六日より同年二月二十日迄の間にそれぞれ原告の指定した場所に於て原告に引渡し、右引渡に要する荷造運賃は総て被告の負担とすることとして賣買契約を締結しその代金は前記金二十三万円の債権を以て之に当てることとなしたが、被告は昭和二十三年一月十八日及び同年五月十五日の二回に亘り、合計六百個の荷掛を原告に引渡したのみで残四千個の引渡をしないから、原告は同年十一月二十五日被告に対し、同年十二月五日限りその引渡をするように催告したが、これが履行をしない、よつて本訴に於て本件賣買契約の中履行のない前記四千個の自轉車荷掛に関する部分を解除し、右履行に代る損害賠償として契約解除当時の時價一個金百三十円として合計五十二万円及びこれに対する訴状訂正申立書送達の翌日である昭和二十四年六月四日から支拂済に至る迄年五分の割合による遅延損害金の支拂を求めるため本訴に及ぶと述べた。<立証省略>
被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として原告主張の事実の中原告主張のような本件契約の履行の催告を受けたこと、訴状訂正申立書送達の翌日が原告主張の日であることは認めるが、その他の事実はこれを否認する。尤も、被告は原告との間に鉄屑の賣買契約を爲し昭和二十一年十一月中金八万円の前拂を受けたことはあるけれども、これに対し被告は八分の三丸鋼材六瓲金二万円、硅素鋼板一瓲及び〇・五ミリ二百枚運賃荷造料を含み金二万円、四分の三丸鋼材九瓲金三万円、合計七万円の鉄屑を引渡したので、被告の原告に対する残債務額は金一万円にすぎないと述べた。<立証省略>
三、理 由
原告本人尋問の結果(一回)により成立を認めうる甲第一号証及び原告本人尋問の結果(一、二回)によれば、原告は被告との間に鉄材の取引をなし昭和二十一年九月頃以降同年十二月二十六日頃迄の間に前渡代金合計金十五万円を交付したのに対し、被告は約三万円に相当する鉄材の引渡を爲したにすぎなかつたこと、その後原告から再三爾余の鉄材の引渡を求めたけれども被告はその履行を爲すことができなかつたので昭和二十二年十一月十六日原告は被告の代理人吉田清との間に前渡残代金十二万円に被告の債務不履行による損害賠償として鉄材の價格の値上りを斟酌した額を加え合計金二十三万円の支拂を受けることと爲し、その支拂方法として、別に、原告と被告との間に原告主張の自轉車の荷掛四千六百個の賣買契約を爲し、右金二十三万円の前渡残代金債権をこの賣買代金債務に振当て清算することゝし、吉田は被告代理人として原告に対し同人宛右賣買代金二十三万円の受領書を交付したことを認めることができ、被告本人尋問の結果中右認定に反する部分は信用できないし、証人長谷川品太郎の証言は右認定を動かすことができない、その他には右認定を覆すに足る証拠はない。
而して、被告本人尋問の結果により成立を認めうる甲第四号証及び原告本人尋問の結果(一、二回)によればその後被告は荷掛六百個を引渡したけれども残四千個の引渡をしなかつたことを認めることができ、原告が昭和二十三年十一月二十五日被告に対し期限を同年十二月五日迄と定めてその履行を催告したことは当事者間に爭がないから、右賣買契約は原告が本訴において爲した解除の意思表示によつて解除せられたといわなければならない。
從つて、被告は原告に対し前記賣買契約上の債務の履行に代わる損害賠償を爲すべき義務があることが明かである。
原告はその賠償額は契約解除当時の時價として一個につき金百三十円によるべきことを主張するけれども、自轉車の荷掛の價格は物價統制令に基く昭和二十二年八月十二日物價廳告示第四百七十四号により一個について製造業者販賣價格は金五十円、卸賣業者販賣價格は金五十四円五十銭、小賣業者販賣價格は金六十二円に抑えられていたのが、昭和二十三年七月物價廳告示第四百三十二号により製造業者販賣價格は金九十円、卸賣業者販賣價格は金九十八円、小賣業者販賣價格は金百十一円と変更されたけれども、その後右契約解除の日たる昭和二十四年六月二日の口頭弁論期日迄の間その変更は爲されなかつたから、原告主張の價格は物價統制令に從わない價格であつて之を採用することができない。而して債務不履行の場合にその履行に代わる損害賠償の額は、債務の目的物の價格が物價統制令によつて統制されており、債務の履行期と契約解除の時とで統制價格に差異がある場合には、物價統制令の趣旨からいつて、通常の場合には債務の履行期の價格により定めるべきで、特に債務者が統制價格の改訂及び債権者が改訂額による損害を蒙る事情にあつたことを予見し又は予見することができたと認められる場合に限つて、契約解除の時の價格によると解すべきである。而して本件において、被告が前記統制價格の改訂及び債務不履行により原告が改訂額による損害を蒙る事情にあつたことを予見し又は予見することができたと認めることができるかどうかについては主張も立証もないのであるから、損害賠償の額は昭和二十二年八月十二日物價廳告示第四百七十四号に從つて之を定めるべきであるが、その取引の数量、原告本人がその当時自轉車荷掛の小賣業者であつたことについては何等の証拠がないのであるから、このような事情を綜合して判断すれば統制價格中卸賣業者販賣價格によつて之を定めるべきである。
從つて、被告は原告に対し、本件自轉車荷掛四千個の引渡に代わる損害賠償として、一個について金五十四円五十銭、合計金二十一万八千円及び之に対する訴状訂正申立書送達の翌日であることについて、当事者間に爭がない。昭和二十四年六月四日以降右金員完済に至る年五分の割合による遅延損害金の支拂を爲すべき義務があることが明かで、原告の本訴請求は右の限度においてはその理由があるから之を認容すべきであるけれども、その余は理由がないから之を棄却すべきである。
よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第九十二條を適用し、主文の通り判決する次第である。
(裁判官 松尾巖)